ネット上の記事はすぐに消えてしまうことが多いので、
自分が興味を引かれた記事をここに
自分用の記録(備忘録)として保管しておきます。
飼料用米
令和4年8月29日更新
TOP
農業経営
飼料用多収米とは? 主食用米から転換するメリットと、品種選定・栽培のコツ
農業経営
飼料用多収米とは? 主食用米から転換するメリットと、品種選定・栽培のコツ
飼料用多収米とは? 主食用米から転換するメリットと、品種選定・栽培のコツ
出典 : Kaz / PIXTA(ピクスタ)
現在、日本では主食用米から飼料用の多収米への転換が推進されています。しかし、なぜ転換が推進されているのか、また転換するメリットがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、飼料用の多収米を栽培するメリットや品種選定、栽培のコツについて詳しく紹介します。
2022/01/30
#収益性#水稲#飼料作物#栽培管理
目次
主食用米からの転換が推進される「飼料用米」とは?
米農家が飼料用米栽培に取り組むメリット
デメリットはある? 飼料用米による農業経営の課題
「主食用米と同じ」はNG! 飼料用米の収量を増やす栽培のコツ
日本では現在、国から主食用米から飼料用の多収米への転換が推進されています。そこで、この記事では、転換が推進されている理由や、転換のメリット・デメリット、品種選定のコツなどについて紹介します。
主食用米からの転換が推進される「飼料用米」とは?
まずは、そもそも「飼料用米」とは何かを説明します。飼料用米がどのように利用されているのか、またなぜ転換が推進されているかといった理由なども解説していきます。
飼料用米の概要と、転換が推進される理由
飼料を与えられた乳牛
ymtsmtk / PIXTA(ピクスタ)
飼料用米とは、水田を活用して生産できる家畜用の飼料のことです。
現在の家畜飼料としてはとうもろこしが広く使われていますが、飼料用米(玄米)の栄養価はとうもろこしとほぼ同等であり、家畜にとって優れたエネルギー供給源となります。
日本で主食用米から飼料用米への転換が推進されているのは、飼料の自給率向上や経営リスクの分散が目的です。
現在、家畜飼料として広く利用されているとうもろこしは、その約9割を輸入に頼っています。
しかし、輸入に依存しすぎていては、海外の穀物価格や為替相場の変動が畜産物の価格や生産量に直接影響を与えます。そこで国は、飼料の自給率を上げることで、畜産物の供給安定を図ろうとしているのです。
また、国民1人当たり1年間の米の消費量(国民1人・1年当たり供給純食料のうち米)は、1965年には111.7kgだったのに対し、2019年には53.2kgとほぼ半分に減少しています。
国民1人・1年当たり供給純食料のうち米の推移
出典:農林水産省「食料需給表」所収の「令和2年度食料需給表(概算)」よりminorasu編集部作成
さらに、新型コロナウイルスの影響によって中食・外食事業者向けの需要も減少していることから、米の価格は今後もどんどん下落していくと推測されています。
一方で、飼料用米は安定した収入を得ることが可能であり、現在の水田をそのまま活用できることから、経営リスク分散の手段として、飼料用米への転換が推進されています。
※米の価格動向についてはこちらの記事もご覧ください。
米の買取価格の動向と今後の予測|農家が取るべき対応とは?
米の買取価格の動向と今後の予測|農家が取るべき対応とは?
日本における飼料用米生産の現状
2020年産の飼料用米の作付面積は全国で7.1万ha、生産量としては38万tで、平均単収は10a当たり539kgでした。
飼料用米の作付面積・生産量の推移
出典:農林水産省「「飼料用米をめぐる情勢について(令和4年1月)」よりminorasu編集部作成
また、飼料用米の経営規模としては、全水稲の作付規模の約8割以上が5ha以上となっており、大規模農家が生産を担っていることが分かります。
水稲全体と飼料用米の経営規模別文武状況
出典:農林水産省「農林業センサス 2020年 水稲部門−販売目的の水稲作付面積規模別統計」、「「飼料用米をめぐる情勢について(令和4年1月)」よりminorasu編集部作成
一方で、2018年以降の生産量は減少傾向にあり、畜産農家側からは安定的な供給が求められています。
また、多収品種の導入や水田の区分管理などによる本作化、複数年の契約による安定的な取引拡大も推進されています。
出典:農林水産省「飼料用米関連情報」所収「飼料用米をめぐる情勢について(令和4年1月)」
米農家が飼料用米栽培に取り組むメリット
飼料用米の水田
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
飼料用米への転換目的を理解しても、米農家として気になるのは、飼料用米の栽培が農家にとってどのようなメリットをもたらすかということでしょう。そこで次に、飼料用米に転換するメリットについて詳しく紹介します。
主食用米の栽培に向かない水田でも、新たな設備投資なしで栽培できる
飼料用米は、排水が悪い、あるいは、ほ場整備を行っていないなど、高品質米の栽培には向かないような水田でも作付けが行えます。
栽培体系は主食用米と同じ
飼料用米の栽培体系は、田植えから収穫までは通常の稲作と同じです。そのため今まで使用してきた農機具などが利用でき、特別な設備などが不要なので、大きな負担なく転換が行えます。
主食用米品種も利用できる
飼料用米としては、通常、収量の多い専用品種が使われます。しかし、主食用品種のうち、収量が比較的多い品種も飼料用米としての使用が可能です。つまり米農家が慣れ親しんだ従来の品種が使えるため、転換に感じる不安を減らせます。
助成金など、安定経営につながる国の支援策が豊富
国は、飼料用米へのスムーズな転換を推進するため、さまざまな支援策を行っています。
飼料用米に取り組むことで受けられる助成としては、「水田活用の直接支払交付金」の戦略作物助成や産地交付金(転換作物拡大加算、複数年契約加算)などがあります。
戦略作物助成金は、水田を活用して飼料用米を生産する農家に対し、収量に応じて10a当たり5.5〜10.5万円が交付されます。
過去実績から標準単収以上の収量が確実だと認められる場合には、自然災害などの場合でも特例措置として標準単価(10a当たり8万円)が交付される点が魅力です。
転換作物拡大加算は、地域農業再生協議会ごとにみて主食用米が減少し、転換作物の面積が前年度より増加した場合、増加面積に応じて10a当たり1.5万円を配分するものです。
複数年契約加算は、より安定的な生産と供給を支援するための交付金で、飼料用米を必要とする事業者との複数年契約(3年以上)を行った場合、10a当たり1.2万円が配分されます。
※「水田活用の直接支払交付金」などの経営所得安定対策は、年度ごとの予算措置によって内容や金額に変更があります。必ず、林水産省の「経営所得安定対策」のページや各自治体の案内を確認してください。
※2022年1月現在、令和3年度のパンフレット「経営所得安定対策等の概要(令和3年度版)」が掲載されています。
デメリットはある? 飼料用米による農業経営の課題
飼料用米と飼料用とうもろこし
Kaz / PIXTA(ピクスタ)・ttn3 / PIXTA(ピクスタ)
飼料用米を栽培するデメリットとしては、低価格での販売が求められる点が挙げられます。
飼料用米は飼料の主原料である輸入とうもろこしの代用であるため、畜産農家の負担にならないよう、とうもろこしと同等もしくはそれ以下の価格で販売しなければいけません。
しかし、現在の主食用米の収量のまま低価格にすると、利益率が下がってしまいます。低価格と儲かる農業を両立させるためには、多収の実現や農地の大区画化など、生産コストの低減が課題となるでしょう。
「主食用米と同じ」はNG! 飼料用米の収量を増やす栽培のコツ
では、多収を実現させるにはどうすればよいのでしょうか。最後に、飼料用米を栽培するに当たって、どうすれば収量を増やせるのか、その栽培のコツについて具体的な事例などを紹介します。
収量確保の鍵は「品種選定」と「作期の分散」
収量を確保するには、第一に品種の選定が重要です。
品種を選ぶポイントとしては、「多収かつ効率化ができる」、「栽培する地域や用途に適合する」、「多肥栽培や直播栽培に適応できる(耐倒伏性が強い)」などであり、これらをクリアできる品種をまず探してください。
主な多収の品種としては、晩生品種の「いわいだわら」(10a当たり収量:842kg)や、「晩生の早」品種「モミロマン」(10a当たり収量:823kg)、「みなちから」(10a当たり収量:816kg)などがあります。
加えて、収穫時期の異なる複数の品種を導入すれば、作業の分散や農機・農機具の稼働率向上などをめざせます。農地を区分して作期をずらすことで、作業に当たる人数や農機・農機具を増やさずに規模を拡大できます。
実際に多くの飼料用米栽培農家が、多品種栽培によって多収化や効率化を図っています。
「飼料用多収品種に適した播種量」に調整する
水稲の直播
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
多くの飼料用米の品種は、主食用米の一般品種と比較して粒が大きいのが特徴です。そのため、一般品種と同程度の播種量では種籾数が不足し、移植時の欠株や直播時の出芽、苗立ち密度の低下を招く可能性があります。
飼料用米の品種では、千粒量を確認して移植時には苗箱当たりの播種量、もしくは直播栽培における播種量の調整を行うことが重要です。
具体的には、箱当たりの播種量を主食用米の一般品種よりも10〜20%程度多くしましょう。
また、飼料用の多収品種は、直播栽培や疎植栽培もおすすめです。直播栽培は育苗や移植の省略によるコスト削減が、疎植栽培は育苗にかかる資材や労力などの削減が行えます。
ただし、これらは品種や地域による適性があるので、地域の指導機関やJAに相談してください。
病害や倒伏にも考慮した「多肥栽培」を行う
飼料用米は、基本的に倒伏しない範囲で多肥栽培を行います。これは、飼料用米が食味や玄米の外観品質を考慮する必要がなく、多収品種の性質上、多肥条件下で増収しやすいからです。
肥料代を節約するには、耕畜連携による堆肥の利用や地力窒素の発現量が多い大豆などと輪作することによって、化学肥料の減肥を行うことがポイントになるでしょう。化学肥料を使う場合であっても、比較的安価な単肥を活用することでコスト低減につながります。
倒伏に強い多収品種は、主食用米の慣行栽培に対して1.6〜2倍程度の窒素施用が可能です。
ただし、いもち病の多発地帯では、いもち病発生時期の窒素過多を避けるため、初期の追肥を行わず、後期に追肥を行うことで窒素施用量を増やします。
多収米に適した「コンバイン用収穫キット」で、作業精度と速度の安定化を実現
従来のコンバインで飼料用の多収米を収穫する場合には注意が必要です。
多収品種の場合、収穫期にはコンバインに大きな負担がかかってしまうことから、「走行速度を落とす」、「刈り取り位置を上げる」、「一度に刈り取る条数を下げる」などの工夫を行ってください。
飼料用米のような長稈稲のための専用アタッチメントを導入するのもおすすめです。通常の刈り取り位置のままでコンバインの詰まりや屑発生を防ぐ工夫がなされているため、収穫作業時の損失減少と作業の効率化を期待できます。
※各地域に飼料用米の利活用を推進する協議会などがあり、農林水産省が先駆的地域からの報告をまとめています。是非参考にしてください。
農林水産省「飼料用米の利活用について」
株式会社秋川牧園(山口県山口市)は地域農家と「飼料用米プロジェクト」に取り組んでいる
株式会社秋川牧園(山口県山口市)は地域農家と「飼料用米プロジェクト」に取り組んでいる
出典:株式会社PR TIEMS(株式会社秋川牧園 ニュースリリース 2020年12月16日)
今回は、主食用米から飼料用米への転換が推進されている背景や、飼料用米を栽培するメリット・デメリット、栽培のポイントについて紹介しました。主食用米は新型コロナウイルスの影響もあり、需要が低下しています。
しかし飼料用米は高い需要を維持しており、政府の助成金支援なども豊富であることから、転換による経営リスクの分散が図れるでしょう。ぜひ今回の記事を参考に、主食用米から飼料用米への転換を検討してみてはいかがでしょうか。
#収益性#水稲#飼料作物#栽培管理
百田胡桃
百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。
2022年08月29日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック